「自分の想いを家族に伝える大切さ」
発病した頃について
20代前半、内科の病気で入院していた時に幻覚の症状が出てきました。自分と同じような顔の女性が「こっちおいで」と窓の方から声をかけてきたので椅子に登り窓を開けようしてしまい、精神科に入院することになりました。先生からは「神経衰弱状態」と言われました。そこから3年間精神科の病棟に入院していました。入院中は、毎日のように「自分はこれからどうなるのだろうか」「本当に退院できるのだろうか」と頭の中が真っ白でした。「入院生活は辛かったな」と感じています。その後うつ病、精神遅滞と診断されています。
夫との出会い
退院後、実父との関係があまりよくなかったため、グループホーム(※1)へ入居することになりました。グループホームで生活しながら、30代中頃までヘルパーとして仕事をしていました。その頃に、夫と出会いました。最初から夫には自分のことを正直に伝えようと考え、病気のことや薬を服用していることなどを伝えました。夫は病気のことやこれまでの生活のことを伝えても「そうなんだ」と驚いたりすることもなく、話を受け止めてくれました。話をしてからは、より体調のことを気にかけてくれました。その後、結婚することになりました。
義両親に想いを伝えられず悩んだ時期
夫と義両親と4人暮らしが始まりました。結婚を機に家事をするため仕事は退職し、自宅で内職をしました。内職をしながら、家事を頑張っていました。最初の頃は、義両親から何も言われることなく、過ごしていました。しかし、徐々に義両親から「家事がうまく出来ていない」「この家事はこの時間にしてほしい」などと言われることが出てきました。自分でも家事がうまく出来ていないなと思うこともありましたが、体調の波がありながらも自分なりに頑張っていたので、義両親の言葉はプレッシャーでした。自分としては家事の内容が問題なく出来ていると思うこともあり、なぜ義両親はうまくできていないと言うのだろうかと思うこともありました。義両親に調子が悪いことを伝えられれば良かったのですが、「こんな事を言ってもいいのだろうか」「怒られるのではないか」と躊躇してしまう部分があり、言えずにいました。義両親に自身の想いを伝えることができず、しばらくは辛い生活が続きました。買物に行くとお腹が痛くなるようになり、誰にも会いたくなかったです。ひどい時は2階の部屋から1階に一人で降りることもできない状況でした。自宅での内職ができない状態が続き、調子も崩しやすかったため、自宅から離れて過ごす時間を持つために、障害福祉サービスの就労継続支援事業所(※2)を利用することになりました。支援者と話していく中で、義両親に病気のことや自分自身の想いを伝えていきたいと思い、話し合いの機会を作りました。話し合いでは、本当は両親から頼まれている時間帯に家事をしたいと思っているけれども体調の波で思うようにできない日があることや自分自身もできないことが苦しいと感じていることを伝えました。話し合いをした後は義両親も分かってくれたようで何も言わず見守ってくれていました。しかし時間が経つと「なぜお願いしている時間帯に家事をしないのか?」と言われるなど話し合いの前の状態に戻っていました。支援者を含めて話をしても、義両親に自分の病気のことや気持ちをすべて分かってもらうことは難しかったです。今改めて考えると、本当に体調が悪く2階の部屋から出られない時は、何も言わず見守ってくれていたので分かってくれていた部分もあったと思います。当時は「辛いことを義両親にも分かってもらいたい」「なぜ伝えているのに分かってもらえないのだろうか」という想いが強くありました。
夫の存在
義両親は他界し、現在は夫と2人暮らしです。私の一番の理解者は、夫です。調子を崩すと家事ができなくなるので、私が寝込んだ時には、ご飯を作ったり、掃除をしたりしてくれています。分からないことや少しでも気になったことは夫に相談しています。また、私は時期の変わり目に調子を崩しやすい傾向があり、大きく体調を崩した時には大量服薬をしてしまうこともありました。自分では気づけなかった不調のサインに夫が気づき、「調子悪そうだね。病院に行く?」「通勤は大丈夫?」など声をかけてくれます。このように夫がサポートをしてくれることが、今の調子の安定に繋がっていると思います。私にとって夫はとても大事な存在です。
これからの生活について
夫と一緒にいろいろな場所へ行きたいです。今も映画などに出かけています。夫が絶景を見るのが好きなので、夫の好きな場所にも行けたらいいなと思います。また、障害者雇用で障害者施設の清掃員として働いています。大変ですが、とてもやりがいがあります。掃除をしたあとに「ありがとう」と言ってもらえることが嬉しいです。これからも仕事を頑張りながら、夫との時間も大切に過ごしていきたいです。
家族関係で悩みを抱える当事者や家族の方へのメッセージ
当事者の方へ
自分の病気のことや得意なこと、苦手なことを正直に周りの人へ伝えると良いと思います。家族であっても自分から病気のことや想いを伝えていかないと、分かってもらうことは難しいと思います。すべてを理解してもらうことは難しいですが、伝えることで分かってもらえることもあると思います。
家族の方へ
家族の方には、「頑張れ」ではなく「応援しているよ」と声をかけてもらえれば良いと思います。いつも「頑張れ」と言われますが、自分の中で十分頑張っている時にその言葉を聞くとプレッシャーに感じます。私は、家族には側で見守っていてほしいと思っています。「応援しているよ」という言葉は柔らかくて見守られている感覚があるので、近くで見守っていることを伝えてほしいです。
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※1グループホーム(共同生活援助事業)とは、障害福祉サービスのひとつです。障がいのある方が、自立した日常生活を営む上で相談や食事・入浴等の介護など、日常生活に必要な支援を受けることができる共同住宅です。
※2就労継続支援事業とは、障害福祉サービスのひとつです。企業等に就職することが困難な障がいのある人に対して、生産活動の機会の提供、知識及び能力の向上のために必要な訓練等が行われます。就労継続事業には、就労継続支援A型事業所と就労継続支援B型事業所の2種類があります。