家族みんなで介護をする日々より~本人らしく暮らせるように~
物忘れがどんどんひどくなって…
本人は80代の男性。家族は、本人夫婦と息子さん家族の7人家族。奥さんが家族の皆さんと協力しながら自宅で介護をしています。本人は4年前に手術のため入院したことをきっかけに転倒するようになり、物忘れもどんどんひどくなってきました。車を運転している途中で、行き先がわからなくなることもあり3年前に運転免許証を返納しています。そのことを忘れてしまい、「車を盗られた」と怒って夕方に一人で外へ出て行ったり、穏やかな人だったのに怒って家族に手を上げようとすることもありました。
妻として自分さえ頑張ればという想いで…
夫は定年まで働き、家族のために頑張ってきてくれたので「妻として夫のために頑張らないと!」という想いで介護をしてきました。それでも、車の免許を返納してから「車が無い!」と怒っている夫が怖くて、夫が落ち着くまで隠れていたこともありました。夫のためと思って手を出し過ぎたり言い過ぎたりして、後になって夫の身になって考えられていなかったと反省することの繰り返しです。もういいと思うことも何度もあり、本当に一人で考えすぎていたと思います。
通所サービスを利用して
一人で介護をすることは大変でした。このままでは良くないと思い、2年前から加賀のぞみ園の通所リハビリテーションを利用し始めました。最初は週2回の利用だったのが、認知症の進行と介護負担が増えるたびに利用する回数が増えて、いまは月曜日~土曜日まで利用しています。通所サービスを利用してから家での夫の様子が大きく変わったということはないですが、通所を利用している間は夫と離れて息抜きができて気持ちが少し楽になります。
夫は送迎をしてもらい、「温泉に入りに行く」と言って通うことを楽しみにしています。夫が行きたがらないときでも、職員さんも一緒に上手に声掛けをして誘ってくれました。職員さんから夫へのかかわり方や介護の仕方を教えてもらったり、いろいろと相談を聞いてもらうこともあります。
夫は穏やかな人
夫は穏やかな人で、夫婦仲はとても良かったです。きっと、夫は家に居ることをわかっていて、その安心感から感情がそのまま出ているのではないかと思っています。窓から電車が通るのを見て、「乗りたいなぁ」と言っていたのも最近は聞かれなくなってきました。「外に行く」とよく外出していたけど、それも言わなくなってきました。
刺身が好きで、昔は何を食べても「うまい、うまい」と食事を食べていたけど「うまい」と言わなくなり、空腹を満たすために食べているようにも見えます。でも、時々だけど食事が終わって立ち上がった時に「うまかった」と言ってくれたり、たまぁにだけど「ありがとう」と言ってくれることもあります。
「自分がしてあげている」が夫に伝わっているのでは…
夫にあれもこれも言い過ぎて怒らせてしまいます。声掛けもしないでいきなり顔を拭いて夫を怒らせたこともありました。夫に対して“お世話をしてあげている”という気持ちがあったのではと思うことがあります。まず「いまから何をするのか夫に声掛けをすることが大切です」と通所サービスの職員さんから教えてもらいました。
体や手足に触れるスキンシップが大切で、本人が心を開いてくれると聞いてやってみたけど夫には嫌がられました。夫が一人で着替えをしていてうまくできなくて、どうしようもなくなった時に手伝ってみたら「ありがとう」と言ってくれたことがありました。夫が気持ちよく穏やかに過ごせるために、どうしたらいいのかを悩みながらも考える日々が続いています。
幸の会に入会して
幸の会には認知症のことをもっと知りたい、講演会に参加してもっと勉強したいという想いで入会しました。テレビで認知症の番組をいろいろしているけど良いことしか言っていなくてあまり参考になることがありませんでした。他の家族がどんなふうに介護をしているのか、工夫をしているのかいろんな話を聴いてみたかったのですが、時間の都合がつかず参加することがなかなかできませんでした。
自分のこと、家族のことも大事だと考えるようになってきた
これまでは、夫のことを一生懸命に考えてきました。でも、いまは自分自身のこと、家族のことも大事だと考えるようになってきました。家族が仕事の勤務を変えて通院を手伝ってくれたり、いろいろとかかわってくれるので助かっています。それでも、夫と一緒に家に居ると半日、一日がやっと過ぎたと感じることがあります。家族もいろいろと手伝ってくれて支えてもらっているけど、家族みんなを巻き込んでいることやこれからのことを考えると心配な想いもあり施設に入所することも考えています。
インタビューを終えて
今回、お話を聴かせてもらい、奥さんとご家族みんなが協力して外へ行きたいご本人に付き添って一緒に歩いたり、気分転換にとドライブへ出かけたり、ご本人がこれまで過ごしてきたご自宅で生活ができるように、またご本人がやりたいことができるように付き添い、支えてこられたことがとてもよくわかりました。奥さんは、日々の介護の大変さから考え込んだり周りが見えなくなったりすることもあったとのことですが、ご家族みんなでご本人の介護を考えてきた“家族の力”があったからこそ、奥さんもご本人のことを一番に考えて頑張って来られたのだろうと思いました。
これからの介護を考えていく中では、施設入所も選択肢に入ってきていますが、ご家族としてご本人にいま何ができるかを一生懸命に考えてかかわろうとする姿勢はきっとこれからも変わらないのだろうと思いながらお話を聴かせていただきました。